去年の秋にデヴィッド・クロスビーがニュー・アルバムをリリースした。その情報は目にしていたけれど、今頃になってようやく聴いた。自然に聴くことになった。凄くいい。いや、いい悪いを越えたアルバムとして内面に沁み入ってくる。個人的なことだけれど。
それは様々なぼく個人の想いと重なり、シンクロしているものを感じるからだろう。個人的なことだけれども、こういうのも音楽との幸福な出会いだ。誰もが、そんな特別な出逢いを感じるアルバムがあるのではないだろうか?
まず、目に飛び込んできたのは、ジャケットである。灯台の見事な写真。生き物の様なパッションさえ感じさせる盛大な埠頭にぶちあたり爆裂している波。全体の陰影。
デヴィッド・クロスビーは言うまでもなくアメリカ西海岸の音楽界の伝説の一人だ。
キャリアをざっと振り返ってもそれが分かる。
CPR, Crosby & Nash, Crosby, Nash & Young, Crosby, Stills & Nash, Crosby, Stills, Nash & Young, The Beefeaters, The Byrds, The Jet Set , The Red Hots
1963年から活動しているから、もう活動歴は54年目だ。1941年8月14日生まれだから、76歳になる。先頃来日したポール・マッカートニーの一つ歳上だ。カリフォルニア州ロサンゼルスに生まれ、父親はあの有名な映画「真昼の決闘」など、ハリウッドで活躍した撮影監督のフロイド・クロスビーだ。想像するにその成長の過程は、正にジェームス・ディーンの「理由なき反抗」的な戦後世代の少年としての50年代から、ビートニク、そしてフォーク・ジャズ・ドラッグカルチャーを経てサイケデリックへと進む時代とともに生きてきたのだと思う。「それ」が何かの花の種子であるならば、そういう環境の下で花が咲かないわけがない、みたいな感じがする。その最初の花が1964年にロジャー・マッギン、ジーン・クラークらとともに結成したバーズだろう。ディランの、曲のカヴァーである「ミスター・タンブリンマン」のヒットで一気に1960年代フォークロック・シーンを代表するグループになっが、クロスビーの作る曲はフォーク的といっても早くからジャズの影響などを含んでいて、モーダルで先進的だったし、サウンド的に実験的なところもあった。変則チューニングの使用やモード的なコード進行のアプローチ、シタールを使用したのも早かったしジャージ・ハリソンにシタールを紹介したのもクロスビーだと言う。変則チューニング、モード的コード進行など、バーズ・サウンドを牽引する役割を果たしていた。
その後、バーズ脱退後は、ジョニ・ミッチェルのファーストアルバムのプロデュースをしている。このアルバムは何故か去年よく聴いたのだが、クロスビーのジョニに対する入れ込みと尽力はかなりの物だったらしい。確か、何処かのフォーク・カフェ(サンフランシスコだっけ?)で歌っているジョニを偶然見つけ、アルバム制作へと進んでいったのだ。
1968年には、バッファロー・スプリングフィールドのスティーヴン・スティルスと元 イギリスからアメリカ西海岸へと活動拠点を移していた元ホリーズのグラハム・ナッシュと共に「クロスビー・スティルス&ナッシュ」を結成した。この辺りからぼくの洋楽体験とようやく同時進行になってくる。まあ、当時は好きだったビートルズのアルバムを昼飯代やバス代を回して揃えるのがやっとで、他はラジオで聴いたり、カセットテープに録音したものを聴くのがほとんどだった。
その後、グループにニール・ヤングがグループに参加して制作された、1970年3月リリースのアルバム『デジャ・ヴ』。これは60年代のビートルズを始めとする第一次ブリティッシュ・インベンション以降に起こったアメリカ西海岸フォークロックの到達点の一つだろう。アルバムのタイトルナンバーはクロスビーの作だ。

1971年にリリースされたクロスビーの初のソロ・アルバム。ジェファーソン・エアプレインの面々、グレイトフル・デッド等が参加して録音された『イフ・アイ・クッド・オンリー・リメンバー・マイ・ネーム』。今、これを書いている間もこのアルバムがかかっているのだが、このアルバムと今回の「ライトハウス」を聴き比べると、なかなか感無量だし、二つのアルバムが意識の中で共鳴し、ある種、円環のイメージを感じるのです。
2つのアルバムの間には45年という歳月の流れがある。その45年を個人的にも洋楽を聴き始めた頃から今この時までの歳月と、つい重ね合わせてしまう。しかし、この2枚を聴いているのは今である。45年という歳月は幻でしかない。それを証明する為に存在するかの様に、この2枚のアルバムは45年の時の流れを超えて、或いは、時の流れなど本当は無くて、それは幻想に過ぎないのだと言っているかの様に、タイムレスに響き合い、共鳴する。
そんな風に、一人のアーチストの時を隔てた2枚のアルバムを聴く体験はこれが初めてだ。
さて、アルバム「ライトハウス」。
収録曲は次の通りだ。
Things We Do For Love 4:15
The Us Below 3:41
Drive Out To The Desert 4:14
Look In Their Eyes 4:36
Somebody Other Than You 4:23
The City 4:45
Paint You A Picture 4:24
What Makes It So 4:00
By The Light Of Common Day
誰がどの様に曲を書き、作詞をし、どんな楽器を弾いたのか、そこのところも詳しく知りたくなる。すると、このカルフォルニアの光を受け、影をくぐり抜けて来た一人のベテラン・ミユージシャンが75歳の今、どの様に作品を創り出したのかを垣間見ることができる。そこで浮かび上がってくるのは、一言で言えば、今の若い人と対等に共同作業をすることで、現在進行形であり続けようとしている姿勢だ。
A1. Things We Do For Love
Acoustic Guitar, Twelve-String Guitar [12-string Acoustic Guitar], Electric Guitar, Double Bass, Vocals – Michael League
Lyrics By – David Crosby, Michael League
Music By – David Crosby, Michael League
Vocals, Acoustic Guitar – David Crosby
4:15
A2 .The Us Below
Acoustic Guitar, Guitar [Hammertone Guitar], Electric Guitar, Double Bass, Vocals – Michael League
Lyrics By – David Crosby, Michael League
Music By – David Crosby, Michael League
Vocals, Acoustic Guitar – David Crosby
3:41
A3 .Drive Out To The Desert
Acoustic Guitar, Vocals – Michael League
Music By, Lyrics By – David Crosby
Vocals, Acoustic Guitar – David Crosby
4:14
A4 Look In Their Eyes
Acoustic Guitar, Electric Guitar, Electric Bass, Percussion [Guitar Percussion], Vocals – Michael League
Lyrics By – David Crosby, Michael League
Music By – David Crosby, Michael League
Vocals, Acoustic Guitar – David Crosby
4:36
A5 .Somebody Other Than You
Acoustic Guitar, Twelve-String Guitar [12-string Acoustic Guitar], Electric Guitar, Acoustic Bass, Vocals – Michael League
Lyrics By – David Crosby, Michael League
Music By – David Crosby, Michael League
Vocals, Acoustic Guitar – David Crosby
4:23
B1. The City
Acoustic Guitar, Baritone Guitar [Baritone Acoustic Guitar], Twelve-String Guitar [12-string Electric Guitar], Electric Guitar, Electric Bass, Vocals – Michael League
Lyrics By – David Crosby, Michael League
Music By – Michael League
Organ – Cory Henry
Vocals, Percussion [Guitar Percussion] – David Crosby
4:45
B2.Paint You A Picture
Acoustic Bass – Michael League
Lyrics By – Marc Cohn
Music By – David Crosby
Piano – Bill Laurance
Vocals, Acoustic Guitar, Twelve-String Guitar [12-string Electric Guitar] – David Crosby
4:24
B3.What Makes It So
Acoustic Guitar, Baritone Guitar [Baritone Acoustic Guitar], Double Bass, Vocals – Michael League
Music By, Lyrics By – David Crosby
Organ – Cory Henry
Vocals, Acoustic Guitar – David Crosby
4:00
B4.By The Light Of Common Day
Acoustic Guitar, Electric Guitar, Guitar [Hammertone Guitar], Acoustic Bass, Vocals – Michael League
Lyrics By – David Crosby
Music By – Becca Stevens
Piano – Bill Laurance
Vocals – Becca Stevens, David Crosby, Michelle Willis
6:15
Arranged By [All Songs Arranged By], Art Direction – David Crosby
Art Direction – Jan Dee
Artwork – Emilia Canas Mendes // GroundUP Music Design*
Co-producer [Co-produced By], Recorded By, Mixed By – Fab Dupont*
Engineer [Engineering Assisted By] – Bil Lane, Ed Wong, Rich Tosi
Management – Becca Stevens
Mastered By – Greg Calbi
Mastered By [Vinyl] – SH*
Photography – Bamboo Studios
Photography By – Eduardo Teixeira de Sousa
Producer [Produced By], Arranged By [All Songs Arranged By] – Michael League
Recorded By [Vocals Recorded By] – Patrick MacDougall (tracks: A2, B1)
まず、ぼくが一目で惹かれたジャケットの見事な写真は、Eduardo Teixeira de Sousa というポルトガルの写真家で、調べると、ネットでもいろんなところで写真を公開している。このアルバムに採用された写真の別カットも数点見られる。他の写真も見事なものが多い。
アルバム・デザインはクロスビー本人がアート・ディレクションしているから、本人が写真を見つけたのかもしれないし、そうではなくても、本人が気に入った写真であることは間違いないだろう。
曲作りは、若手のアーチストと共作している。"PAINT YOU A PICTURE" はグラミー・シンガー・ソングライターのMARC COHだ。
プロデュースでもあるMichael LeaGu とは曲の共作を含めてがっつりタッグを組んでいることが分かる。彼は、ブルックリンをベースに04年結成に結成された、"SNARKY PUPPY" の中心人物だ。また、アルバム最後の曲はBecca Stevens が書いた曲にクロスビーが詞をを付けている。レコーディングは、ジャクソン・ブラウン所有のGROOVE MASTERSスタジオで行われた。
先にも書いたけれど、45年前のクロスビー初のソロ・アルバム『イフ・アイ・クッド・オンリー・リメンバー・マイ・ネーム』(If I Could Only Remember My Name)と続けて聴くとなんとも言えない円環を感じる。「ライトハウス」でクロスビーは追憶に浸っているわけではないし、拘っているわけでもない。ただ今に在り、今の有能なミュージシャンと今を歌う。それが、活動歴54年の重さを感じさせず、寧ろあっけらかんとした初々しささえ感じさせる理由なのかもしれない。
アルバム最初の曲 "Things We Do For Love" 奇しくも、10ccの曲と同名異曲だけれど、長年連れ添った妻に捧げた曲だそうだ。
「ぼくらが愛のためにすること」
これが、このアルバムに通して流れている。

そして、1971年のアルバム・タイトルは、訳せば、
「もしも、ぼくが自分の名前を覚えていたら」
である。最初のこのアルバムと「ライトハウス」の間に流れた45年の歳月を自分の45年と重ねて思う時、ぼくは自分の名前を覚えて入られたのだろうか?と思うのだった。そして、ぼくはぼくの心の中の灯台を今一度眺めている。この灯りは、いつか届くだろうか?
